小林診療所

神戸市東灘区の甲状腺疾患,御影駅近く 小林診療所

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副甲状腺疾患について

副甲状腺疾患の種類及び治療の歴史

<副甲状腺とは>

この臓器の呼称には、副甲状腺と上皮小体の2つがあります。歴史的には内科系領域では副甲状腺と呼ばれ、外科系では上皮小体と呼ばれていました。現在では副甲状腺と呼ばれる事が多いようです。副甲状腺は通常4つの腺からなります。その位置は甲状腺の背面で、それぞれ左右の上下にあります。黄褐色の色調で、大きさは米粒大です。1腺の重さは30~50mgです。しかし副甲状腺には多くの位置の異常と数の異常が認められます(15%)。位置の異常には正常部より上の顎下腺近くや、より下の気管傍、胸腺内、縦隔内があります。数の異常には2ないし3腺と少ないときと、5腺以上と多いときがあります。これらの解剖学的な異常は、副甲状腺疾患の診断と治療に際し大変重要です。副甲状腺は副甲状腺ホルモン(PTH)を産生し血液中に分泌します。この分泌はビタミンDと細胞外液中のCa濃度の2因子の調節下にあります。これにより血中Ca、P濃度の恒常性は保たれているのです。

<副甲状腺疾患の種類>
A 高Ca血症を伴うもの
a   原発性副甲状腺機能亢進症
副甲状腺腺腫(良性腫瘍)
副甲状腺過形成
副甲状腺癌
b   家族性副甲状腺機能亢進症
c   家族性低Ca尿性高Ca血症
d   その他
 
B 低Ca血症を伴うもの
a   副甲状腺機能低下症
b   続発性副甲状腺機能亢進症
慢性腎不全(腎性副甲状腺機能亢進症)
その他


ここでは原発性副甲状腺機能亢進症と続発性副甲状腺機能亢進症を中心として説明させていただきます。

<副甲状腺疾患治療の歴史>
1933年 Bauer 原発性副甲状腺機能亢進症第1手術成功例の報告
1934年 Albright 腎不全で腎性副甲状腺機能亢進症が出現と報告
1960年 Stanbury 腎性副甲状腺機能亢進症第1例手術
1968年 Berson PTH測定法発見
1972年 Conterbury 3種のPTH発見

というように、この分野の研究及び治療の歴史は大変浅いものです。また、健康診断や人間ドックなどで血中カルシウムの測定がおこなわれるようになり、この疾患が数多く発見されるようになりました。

 

検査法

a.血液化学検査
1)血清カルシウム(正常値8.4~10.4mg/dl) 血清アルプミンが1g/dl減少すると結合したCaは0.8mg/dl減少する。したがって補正総血清カルシウム=測定総血清カルシウム+0.8×(4-血清アルプミン)となる。
簡略式として補正総血清カルシウム=測定総血清カルシウム+4-血清アルプミンも用いられる。また生理的機能に影響するイオン化カルシウム(4.2~5.0mg/dl)の測定も有用である。

2)血清リン(正常値2.5~4.8mg/dl)
 (Ca)×(P)値が一定であることより、高Caは低Pとして、低Caは高Pとして反映される。カルシウムと違いほとんどがイオン化して存在する。

3)アルカリフォスファターゼ(ALP)およびALPアイソザイム
 ALPは骨の成長に関与するため小児では正常値が2倍以上になる。また泳動域より、肝癌性、肝性、骨性(α2β)、胎盤性などに分かれるALPアイソザイムでは、骨性が上昇する。

4)サイクリックAMP(cAMP)
 cAMPは、メッセンジャーとして、細胞内情報伝達系において副甲状腺ホルモンの作用発現に重要な役割を演じている。腎性cAMPはGFRとして、副甲状腺機能亢進症の診断に大切な検査であったが、近年PTHの測定が可能になったことにより以前ほど重要ではなくなった。

b.血中副甲状腺ホルモン(PTH)
 PTHは、アミノ酸84個からなる単鎖のポリペプチドで分子量9500である。PTHは副甲状腺内および末梢で、アミノ酸残基34と35の間と36と37の間で切断され、1-84、1-34、1-36、35-84、37-84のフラグメントの形で存在する。
※最近活性のない7-84が測定できるようになった。
1)N-PTH
 N端フラグメントは生物学的活性を有するが、その不安定さと測定感度の低いことより最近では、測定されないようになった。

2)C-PTH
 検体処理、保存による変動が少ない。血中半減時間が長く、急激な病態の変化を反映しない(術後、クリーゼ)。安価で再現性が高く、長期間に緩徐な変化を呈する腎不全などの経過観察に最適だったが感度が低いために最近は余り測定されていない。

3)M-PTH
 C-PTHに比べ、測定感度が極めて高く、正常者と副甲状腺機能亢進症の鑑別に最適。血中半減時間はC-PTHとI-PTHの中間。
※HS-PTH、高感度PTHとも呼ぶ。

4)I-PTH
 1-84のフラグメントで生物学的活性を有する。N端フラグメントと比べ測定の再現性が高く、M-PTHとともに臨床的価値が高い。検体処理に迅速さが要求される。血中半減時間が極めて短く(約5分)、急激な病態の変化を反映するので、術後などのPTHを観察するのに適している。

5)W-PTH
 従来のI-PTHのなかに、活性のない7-84が含まれることがわかり、それを除外したPTHの測定が可能となった。
※CAP-PTHとも呼ばれる。

6)副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)
 高Ca血症を引き起こす病態には、副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症がある。後者には、骨髄腫や骨転移によるものと、悪性腫瘍がPTHrPを過剰に産生する場合がある。PTHrPは141個のアミノ酸からなる分子量16000のポリペプチドで、扁平上皮癌、腎癌、乳癌、肝癌などや白血病、リンパ腫などで過剰に産生され高Ca血症を引き起こす(humoral hypercalceia of malignancy HHM)。今日PTHrPが測定可能となり、副甲状腺機能亢進症とHHMの鑑別が容易になった。

c.触診および画像診断
1)触診
 種々の検査法が発達した現在でも、簡便で最も大切なものである。副甲状腺腺腫や過形成で蝕知される例は少ない。しかし副甲状腺癌では蝕知される例が多い。後に述べる全国集計では、副甲状腺癌57例中46例で術前に腫癌が蝕知されていた。

2)超音波
 非浸襲的検査であり最もよく利用される。諸家の報告でも、診断率も90%以上である。部位診断に有用であるだけでなく、周囲組織に対する浸潤像や不整な境界所見などの質的診断にも利用される。ただし食道裏側や縦隔内の検索は不能であり、これらの異所腺には以下の検査を使用する必要がある。

3)CT
 大きな甲状腺腫瘍の合併例や、食道裏側、縦隔内など超音波で検索できにくい時に、CTおよびMRが大変重要な検査法である。5mmピッチで撮影し、soft tissue density mass として描出される。診断率は諸家の報告で70~80%である。

4)MR
 適応はCTと同じ。T1強調画像とT2強調画像で撮影される。T1強調画像でlow~isointensity、T2強調画像でhigh intensityを示す。診断率は諸家の報告で70~80%である。

5)副甲状腺減算シンチグラム
 甲状腺のみに蓄積されるテクネシウムまたはヨードと、甲状腺と副甲状腺に集積するタリウムの両シンチグラムを同時に描出し、両者の減算シンチグラムで病的腫大腺の固定を行う。一般的には、タリウムとテクネシウムを用いる。副甲状腺重量1000mg以上で80%、250mg以下で50%程度の感度である。

6)MIBIシンチグラム
 テクネシウム Methoxy-isobutyl-isonitrile(Tc-MIBI)は、心筋血流イメージング製剤として開発された。しかしこれの、甲状腺クリアランスと副甲状腺クリアランスに差が見られるため、投与直後と、2~3時間後のシンチグラムを比較することで、病的腫大腺の固定が可能である。現在心筋にのみ使用が許可されているため、副甲状腺には使用しにくいが、将来は必須の検査法になると考えられている。
 われわれは、まず非優襲的な超音波を、第一選択とし、超音波で部位診断のつかない時にその他の検査を施行している。以上の他に、血液のサンプリング法があるが、現在この方法を用いる施設は、少なくなっていている。

 

原発性副甲状腺機能亢進症

a.はじめに
 われわれに数多くの手術症例を紹介してくださった、藤田拓男氏(前神戸大教授、現カルシウム研)の一文をもって、(はじめに)かえたい。
原発性副甲状腺機能亢進症ほど、その発見以来短い期間にその概念と内容、さらに診断や治療が大きく変遷を遂げた疾患は、他に例を見ないであろう。有名なCharles Martel船長の手術の成功で、初めて本症が独立した疾患として確立されたという報告は1933年のものであり約70年前であった。初めは稀有な疾患として記載されたが、血清カルシウムの測定が行われるようになって飛躍的にその発見が増加した。そして現在では、原発性副甲状腺機能亢進症は内分泌疾患のなかで最も多い病気の一つとされ、糖尿病、バセドウ病と並んで日常診療の対象となっている。さらに軽症例、潜在的な患者を含めると、一般人口の中に広く分布して公衆衛生的に大きな問題となり、患者数も天文学的に増加して、爆発的と形容されたことがある。
 このように以前考えられていたより、はるかに多い疾患であることより、繰り返す尿管結石、病的骨折、口渇を伴う腰痛に対しては、血清カルシウムの測定が必要である。

b.全国集計
 1990年11月に前橋市でおこなわれた第23回甲状腺外科検討会(泉雄 勝会長)の当番世活人報告として、副甲状腺腫瘍に対する外科的治療の全国集計報告が行われた。以下はその概要である。
 1989年までの10年間に全国93施設で行われた原発性副甲状腺機能亢進症は、1255例であった。年次推移は、年々増加し1989年には10年前の3.2倍になっていた。組織型は腺腫77.9%、過形成14.6%、癌4.8%、保留2.7%であった。多内分泌腺腫瘍の合併は5.5%に見られた。男女比は1:2.0で女性に多く、男性は40~50歳代に多く、女性は50歳代に著しく多かった。組織型で分けると、腺腫では1:2.2、過形成では1:1.3、癌では1:2.0であった。全体の臨床病型は、生化学型43.6%、腎結石型41.6%、骨型14.8%であった。癌では骨型が42.4%と多く、腎結石型は25.4%と少なかった。発見のきっかけになった症状は、腎病変33.9%、スクリーニング20.2%、骨病変9.6%、ついで頸部腫瘍、消化器症状、筋神経症状の順であった。
 術前の診断根拠となる血液検査では、高Ca血症は、腺腫で96.6%、過形成で85.5%、癌で100%で認められた。術前の部位診断に、超音波、CT、シンチグラフィーを施行している施設が多かった。
 手術法は、腺腫では腺腫切除が95.3%で、過形成では切除46.3%、三腺半切除の亜全摘と全摘+自家移植がそれぞれ24.5%に行われていた。なお術中に病的腺が発見できなかった例が19例あり、全体の1.5%にあたった。手術回数では、初回手術1.215例(95.6%)、2回目42例、3回目8例、4回以上6例であった。摘出した病的副甲状腺の数は、腺腫では1腺が98.6%、2腺1.2%で癌ではほとんどが1腺で、1例にのみ2腺であった。過形成でも1腺が41.9%と最も多い。4腺すべてに病変ありが23.1%、3腺が12.9%、2腺が21.0%であった。これは、過形成において、4腺が同じように肥大しているのではなく、一部の腺はほぼ正常の大きさであったり、腺腫と過形成病理基準の不明確さより、1腺大型の過形成は実は腺腫である可能性もあると考察されている。発生部位は腺腫で右下、左下に多く、縦隔内に2.4%、甲状腺内に1.1%見られた。癌では上方に多く、右上30.0%、左上26.7%、甲状腺内3.3%であった。腫瘍の大きさは、腺腫では最大径1cm台が最も多く、ついで2cmであり、過形成も同様であった。癌では3cm台が多く、5cmも11%に認められた。重量は腺腫では2g未満が多く、過形成では0.5g未満が多く、癌では6g以上の大きいものが35%あり、ついで2g台が多かった。
 術後の成績は、Ca値が正常化せずに不変・維持したものは、腺腫では2.7%、過形成では8%、癌では17.5%であった。5年経過したもので、再発・再燃したものは、腺腫では17%、過形成では15.6%、癌では34.4%であった。副甲状腺癌で周囲組織に浸潤していたものは65.5%あり、リンパ節転移も16.7%に認め、遠隔転移も4.4%にあった。甲状腺腫瘍60例中再発は21例(35.6%)あり、局所再発が12例、遠隔再発が14例、リンパ節再発が2例あり、腫瘍死は11例(18.6%)にあった。
 2001年11月に東京都で行われた第34回甲状腺外科研究会(現在は学会)小原孝男会長は原発性副甲状腺機能亢進症の全国集計を再度行った。小林診療所を含む全国120施設の1990年から2000年の11年間の初回手術例3152例である。年次推移は前回と同じく10年で2.5倍に増加していた。組織型などは前回と同じ傾向であった。男女比は1:3.0で女性が増加していた。異所性病変が147例(4.7%)に認められ、その部位は縦隔内と甲状腺内が多かった。手術法では前回と異なり、内視鏡下の手術が84例(2.7%)で行われていた。副甲状腺癌の症例は52例(1.6%)で減少していた。カルシウム検査の普及により、早期発見例の増加によるためかと思われる。その他の傾向は前回と同じであった。

c.手術適応
 高Ca血症と高PTH血症があり、病的腫大腺の部位診断ができれば、すべて治療の対象になる。治療法としては、
 (1)外科的に摘出するか、後にふれる
 (2)超音波ガイド下エタノール注入療法
 (3)内科的治療
の3方法がある。将来的には、(2)ないし(3)が中心になる可能性も高いが、現時点では、治療成績が確実な、外科的治療がもっぱら行われている。外科的治療での治療成績を確実にするためには、病的腫大腺をすべて摘出し、かつ少なくとも正常腺を一腺は温存する必要がある。他の臓器と異なってきわめて奇形(異所腺、過剰腺)の多い本症においては、術前の部位診断が大変重要である。このことは、高Ca血症と高PTH血症があって、病的腫大腺の部位診断ができない時には、安易に手術を決めるべきではない。少なくとも高Ca血症が13mg/dl以下の場合には、繰り返し病的腫大腺の部位診断を試みる必要がある。

d.術式の種類
 (1)腺腫に対しては摘出
 (2)過形成に対しては、副甲状腺亜全摘(三腺半切除)、副甲状腺全摘+自家移植
 (3)癌に対しては周囲組織も含めてen blocな切除
が原則的である。

 (1)1991年Tibblinは片側検索を提唱した。これは術前に病的腺の部位診断が可能な場合、病的腺のある片側のみを切開し、病的腺と同側の正常腺の二つが確認されれば、それで手術を終了し反対側は検索しないという方法である。この方法の根拠となるのは、症例の多くが1腺の腺腫であり、double adenomaはまれな疾患であり、また過形成で同側の2腺目が正常大または萎縮していることも少ないということである。本法の利点として、手術時間が短縮され、出血量や合併症の出現が減少させられることである。
 (2)以前は副甲状腺亜全摘術が行われていた。しかし術後再発が問題になり、再発手術の手技が簡単であることより、現在は副甲状腺全摘+自家移植がもっぱら行われるようになっている。
 (3)副甲状腺癌でen blocな切除のみでよいとする意見と、リンパ節郭清も同時に行うべきであるという意見がある。アンケートの項で述べた通り、リンパ節転移も16.7%に認められていることより、当院では原則的にリンパ節郭清も同時に行うようにしている。

 

続発性副甲状腺機能亢進症

<続発性副甲状腺機能亢進症>
a.はじめに
 続発性副甲状腺機能亢進症は、慢性腎不全や胃全摘後の吸収不良による持続性の低Ca血症による副甲状腺の過形成に病因がある。ここでは腎性副甲状腺機能亢進症(renal hyperparathyroidism, RHP)についてのべる。
 1950年代後半に慢性腎不全にたいして腹膜透析と血液透析が導入されてから40~50年が経過した。この間透析膜、潅流液、ダイアライザーなどの改良にともない長期生存が可能となり、当初1年生存率が50%以下であったものが、最近では20年生存率が50%以上になった。現在では、内シャントによる1回4時間週3回の血液透析が一般的である。長期生存が可能になった現在、当初予想もしなかった合併症が出現してきた。その代表的なものに腎性骨異栄養症がある。これは、慢性腎不全による持続性の低Ca血症が副甲状腺の過形成を引き起こし、その結果、血中副甲状腺ホルモンの過剰分泌により骨塩減少が起こる病態である。
 この治療としては、Ca剤、ビタミンDなどによる内科的治療によりある程度の効果が期待できるが、外科的治療が必要とされる症例も増加している。RHPにたいする最初の手術は1960年Stanburyにより報告された。これは副甲状腺亜全摘術であった。その後再発防止のために、副甲状腺全摘術が行われたが、骨軟化症が避けられないことより、副甲状腺全摘術に自家移植が同時に施行されるようになり現在に至っている。なお透析療法学会の集計によると、慢性腎不全患者の受ける外科的治療は、腎移植、手根管症候群、副甲状腺摘出術の順になっている。

b.全国集計
 1992年11月に倉敷市で行われた第25回甲状腺外科検討会(原田種一会長)の当番世活人報告として、二次性副甲状腺機能亢進症に対する外科的治療の全国集計報告が行われた。以下はその概要である。
 1991年までの10年間に全国41施設で、900例の腎性副甲状腺機能亢進症に対する手術が行われた。(この間原発性副甲状腺機能亢進症は1.243例)。年次推移は、年々増加し1982年の27例が1991年には138例になっていた。男女比は1:0.84で40歳代が多かった。血液透析764例、腹膜透析75例、非透析1例であった。透析期間は5~10年が多かった。腎移植後の例が12例あった。4腺例が84%、5腺以上が7%、3腺以下が9%であった。胸腺内または上縦隔に存在した例が21%であった。
 切除総重量は2~3gが多く、15g以上が1例、1g以下が11%であった。異所性の部位は、頚動脈鞘内14、甲状腺内8、胸腺以外の縦隔7、食道裏面、甲状腺上極より上5、気管と甲状腺の間2、上行大動脈傍1であった。
副甲状腺全摘+自家移植が94%、亜全摘6%であった。全摘のみが1例、胸骨切開が12例であった。移植部位は、前腕が最も多く92.8%、その他上腹部、下腿、胸鎖乳突筋、頚部などがあった。移植腺は、diffuse hyperplasiaの部分を用い、移植腺量は30~300mg、平均89mgであった。
 術後になお副甲状腺機能亢進症の認められる例(persistent hyperparathyroidism)が27例(3%)あり、その原因は、異所性の遺残5例、過剰腺の遺残14例、移植量が多すぎた1例、不明4例であった。合併症としては、副甲状腺機能低下症65例、反回神経麻痺29例、出血9例、循環不全4例、肺炎2例、中枢神経障害2例、低Ca血症による精神症状2例、呼吸不全1例、覚醒不全1例、テタニーによる骨折1例であった。
 術前の症状を頻度順に並べると、骨関節痛、皮膚掻痒症、身長短縮や胸郭変形を含む病的骨折、異所性石灰化、全身倦怠感、不眠、イライラ、筋力低下、腰痛、であった。骨関節痛の部位は、膝関節、足関節、肩関節、腰、踵、股関節、肘関節、手関節の順であった。術後改善された症状は骨関節痛、皮膚掻痒症、不眠、イライラ、カルシウム代謝異常、全身倦怠感の順であった。手術適応に関して重視している所見は、PTH濃度、自覚症状、腺の腫大、AI-Pの濃度の順であった。局在診断に有用と考えられる画像診断は超音波、CT、シンチグラム、MRの順であった。術後再発は6%に見られ、術後平均3.7年であった。

c.手術適応
 原則として、内科的治療に抗する腎性副甲状腺機能亢進症が手術の適応となる。Coburnによると、
 (1)持続する高Ca血症
 (2)強い皮膚の掻痒感
 (3)血清CaとPの積が75~80以上
 (4)骨痛または骨折
 (5)異所性石灰化
の5つの条件があげられている。富永は、
 (1)血中PTH値
 (2)線維性骨炎
 (3)副甲状腺の腫大
 (4)異所性石灰化
 (5)高Ca血症
 (6)自覚症状
の六つが重要という。
 当施設では、
1)11mg以上の高Ca血症
2)血清CaとPの積が70以上
3)Intact PTHが500以上、M-PTHが40000以上、W-PTHが300以上
などを重視しているが、
3)一つがあれば適応があると考えている。また、他の疾患と異なり、慢性腎不全患者の場合には、患者間の情報交換が盛んなため、患者本人から積極的に手術を希望することも多い。術後に自覚症状が改善されずにがっかりされないためにも、術前の適応決定については、慎重に考慮することは言うまでもない。2003年10月に米国腎臓財団からKidney Disease Outcomes Quality Initiative(K/DOQI)としてガイドラインがまとめられた。それによるとIntact PTHが800以上が持続される時に副甲状腺手術が推奨されるとされています。また2006年日本透析医学会のガイドラインでは、Intact PTHが500以上で持続し、高カルシウム血症(10以上)または高リン血症(6以上)であれば手術を考慮すべきとされている。
2011年の改定ガイドラインでは、血清リン濃度の目標値3.5~6.0、血清補正カルシウムの目標値8.4~10.0、Intact PTH60~240の範囲に管理することが望ましいとされ、Intact PTHが500を超える場合は高度の二次性副甲状腺機能亢進症として手術を検討することが妥当とされた。

d.術式の種類
 術式の種類は下記の通りである。
1)副甲状腺亜全摘術
2)副甲状腺全摘術
3)副甲状腺全摘術+自家移植
 (1)胸鎖乳突筋
 (2)上腕(上腕二頭筋)
 (3)前腕(機骨筋)
 (4)腹筋または下肢
以前は副甲状腺亜全摘術が行われていた。しかし、腎不全であるという病態そのものは持続するために、術後再発が問題になってきた。そして再発手術の手技が簡単であることより、現在は副甲状腺全摘+自家移植がもっぱら行われるようになった。移植の部位は上腕か前腕が多い。上腕を推奨するものは、将来前腕にシャントを再建する時を考慮してのことである。当施設では前腕に移植している。その理由は、
 (1)将来移植側前腕にシャントを再建しても、穿刺部位は移植部より内側になる。
 (2)移植側前腕を駆血して、左右のIntact PTHを比較することによって、頸部に遺残腺があるかどうか確診できる、からである。移植に用いる副甲状腺は、nodular hyperplasiaな部分ではなく、diffuse hyperplasiaな部分を用いる。移植腺は、
 (1)1mm角に切除
 (2)細切
 (3)ホモジネート
にする方法があり、移植の深さは、
 (1)皮下
 (2)筋膜下
 (3)筋肉内
など施設による差があるが、いずれの方法にせよ、習熟した方法では差がないようである。

e.治療成績
 過剰腺や異所腺も含めてすべての副甲状腺が摘出されれば、症状は著明に改善される。
具体的には、
 (1)24時間以内に皮膚の掻痒感が消失ないし軽減する。
 (2)6ヶ月以内に骨痛または関節痛が消失ないし軽減する。
 (3)心胸比が正常に近づく。
 (4)睡眠障害が著明に改善される
このように、直後より患者さんの話しを聞くだけで、手術の成功が確信できる。しかしもしこれらの症状の改善がない時には、過剰腺や異所腺も含めて取り残しがあると考える必要がある。

 

特殊な疾患

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